蛇足。


〜気功師とミラインが気ままに語り合う空間の狭間〜




「――というわけで今回ラストを飾らせていただくことになりました気功師です。よろしくお願いします」
「どうも、ミラインこと未来編のアライン・フィンスターです。今日はいつもの蛇足とは形式を変えて、皆の裏話や没設定なんかをぶっちゃけていく予定だよ!」
「ほう、形式を変えてとは?」
「訪問スタイルだと面倒臭……じゃなくて、魔力コストがかかっちゃうから、僕と君とでのんべんだらりくっちゃべってようかなあって。どうせ皆対面したところで素直な胸の内なんか聞かせてくれないしさー」
「後半には同意しますね。何故かなかなか本音を言わない方が多いですから」
「でしょ?その点僕らは世界観的にも外側の存在だし、好き勝手に言いたい放題できるかなって?」
「そういうことならお付き合いしましょう。何故と言えば、本編終了から蛇足の執筆までに実に半年以上のタイムラグが存在することも何故なのか理解し難いのですが」
「あっ……、まさか司会任せたいってお願いされてから半年以上待っててくれてたの……?」
「いいんです。待つのは慣れています。幾千年の時を生きる私がたかが半年程度の待ちぼうけで」
「わー!ご、ごめんね!?番外編が予想外に手間取って終わらなくて」
「歩みを止めていたのでないなら結構です。ではこれ以上完結が遅れても仕方ありませんのでさっさと進めましょう。最初はどなたの話からですか?」
「あ、そ、そうだね。じゃあ登場人物一覧の上から順に色々と暴露……じゃない、話題に触れていこうか。前回の蛇足でお察し済みだと思うけど、この先は腐臭が漂ってくること請け合いなので苦手な人は注意してくださいね!」
「ああ、私はそういうの全然平気です。どうぞ続けてください、王よ」
「う、うん……。やっぱり僕の術だけあって君にもBL耐性ついてるんだなあ」
「あなた自身は特にそういう目で見られていないのが不思議ですけどね」
「え?そういう目でって誰に?王都では割と僕の薄い本メジャーなんだけど」
「誰に、などと。皆まで言う必要もないでしょう。1創作につき1BLの自戒も守れぬ哀れな女のことなど……」
「ああそっち!それは確かに不思議と言えば不思議かな。僕なんてそれこそ誰とイチャイチャしててもおかしくないのに実はあんまり誰ともイチャイチャしてないもんねえ」
「正王妃はいますけどね、未来編では新婚早々死に別れて、本編ではなかなか子宝に恵まれずで」
「あ、でも本編軸ではヒルンヒルトに破滅の魔法を引き取ってもらった後、アルムートっていう男の子が生まれてるんだよ。ちゃんと王家も存続するみたい」
「アルムート……精霊言語で”貧乏”ですか?いくら自分の名前が”孤独”を意味するからと言って、息子にまでそんな不憫な名を与えずとも」
「いやーいっそもうそういうネーミングで統一して魔除けの風習っぽく見せちゃってもいいんじゃないかなって……」
「あなたの子供は苦労しそうですね。英雄の2世というのは気を遣うものですし」
「僕のっていうかアラインのだけど……。あー、僕も子供欲しかったなー。イヴォンヌと仲睦まじく手と手を取り合って、日々慎ましく、でも晴れ舞台では華やかに過ごして、国民からの圧倒的支持を得たかったなあー!」
「目的はどっちなんですか」
「そんなのどっちもに決まってるだろ!僕は登場人物中誰よりも自己顕示欲が強くて皆からちやほやされたいと24時間考えてる低俗で卑俗な人間なんだぞッ!!」
「開き直らないでください、王よ。確かにそれもあなたの人柄ではありますが、寧ろ一番の特性は広すぎる博愛精神でしょう。あなたの愛は本当に人を選びませんからね」
「ねえ……」
「なんですか、王よ」
「ふと気づいたんだけど、もしかしてそのせいでカップリングが定まらないのかな?僕……」
「……」
「ちょ、何とか言ってくれよ……」
「まあイヴォンヌ以外の女性と結婚してもそこそこ上手くやれていたのだろうなと思う程度には、あなたの博愛は平均値が高いのだろうとは」
「ウワアアアア!!!!や、やめ、防御の薄いところをつつくのはやめ」
「ですが仕方がないのではありませんか?すべてを平等に愛することと誰かを特別に愛することは両立し得ないものでしょう。結局はこう、あなたの立ち位置が個別愛よりも博愛寄りなので、たとえ夫婦であっても固定カップリングの影は薄く成らざるを」
「ウワアアアアアアアアア!!!!!!」
「まあ、彼女はそんなところも承知であなたと結ばれたのだと思いますがね」
「……!!!」
「というわけでそろそろ次の人物に話題を移しましょうか。まあイヴォンヌなんですが」
「話変わってないなそれ?」
「ぶっちゃけ、王は彼女とシュトラーセどっちが本命だったんですか?」
「!!?」
「ふむ、本命という言い方は良くないでしょうか。イヴォンヌとシュトラーセ、どちらが王にとって正ヒロインだったのです?」
「ちょ……っと、何を聞かれているのかわからないな……」
「でもイヴォンヌは地味にずうっと気にしてるんですよ?答えを出しておいてもいいのではないですか?」
「えっ!?気にしてたんだやっぱり……。必死で気にならないふりしてるなとは思ってたけど……」
「シュトラーセのほうは王妃の存在もあなたの思慕もまったく意に介してないですけどね。巫女と勇者、それ以上でもそれ以下でもないようです。まあ巫女にとって勇者以上の存在なんてないとも言えますが」
「うっ……だけどイヴォンヌと違ってシュトラーセは日常の匂いが感じられないから、やっぱり時々会うくらいがちょうどいいんだと思う……かな……」
「成程。文通レベルの交流が途切れなければそれでいいと」
「あ、それそれ。そんな感じ。僕、彼女にだけは死ぬまで偉そうな口きけない気がしてるから、学生時代お世話になった大先生って印象なのかもしれない。……恩師には手が出ないよ……」
「恋愛度はイヴォンヌが高く、特別度はシュトラーセが高いといったところですか」
「スキャンダル色を落としてまとめようとしたのに蒸し返さないでくれる?ほら、次行こう次!次はベルクだ!」
「ほほう、ベルクですか。実は私、本編では彼に会っていないんですよね」
「結構意外だよねそれ。楽園時代にすれ違う描写があったくらい?」
「ええ、その一度きりです。しかしバイトラークも彼も面白い人物です。あなたもそう思うでしょう?」
「うん、そうだね。ダブル勇者のダブル主人公だし、僕もベルクには万感の思いがあるな」
「そういえば最初、『勇者への道』は5人の勇者が英雄の地位を競って殺し合うという鬱展開の予感しかしない殺伐設定だったそうです」
「知ってる知ってる、魔王候補も魔王含めて5人いたんだよね。ファルシュとゲシュタルトとハルムロースとイデアールとユーニの中で、ファルシュの力を吸収して敵意を増幅させたユーニがラスボスの予定だったんだって初めは」
「もしそうなっていたら鬼っ娘のGカップが拝めたのかもしれません」
「G……。そうだ、元はGだったんだ……」
「私は幼女も好きですがね」
「……さっきから君ちょこちょこキャラ崩れてない?感情とか好悪とかないんじゃなかったっけ?」
「これは蛇足仕様というやつですよ」
「う、うん。そっか。じゃあ気にしすぎないようにする……」
「で、話を戻しますが、勇者候補の5人からクラウディアとディアマントとエーデルが抜けて、結局あなたとベルクのふたりだけが今も勇者として名乗っているわけです。エーデルも神具を有していた経緯から勇者とみなす一派もいるようですが、マイナー学派ですね」
「エーデルは式典とか出たがらなかったし、魔物の血が流れてること気にしてたし仕方ないかな。パレードもセレモニーも見る側のほうがテンション上がるって言ってた気がする」
「そう、そして三日月大陸に勇者はふたりだという認識が常識となったのです。……にも関わらずならない!相変わらずカップリングにならない!あなたとベルクだけは!!」
「そこに持って行くんだ!?別に構わないけどね!?」
「純粋に不思議ですよ。まあ左右ぐらいどちらか決めろと言われればベルアラかな?という宇宙の声が聞こえなくもないですが、二次元にも男同士の友情なんか存在したんですね」
「二次元っていうかそれすごく限定的な二次元だから」
「或いはあなたもベルクも攻めにカテゴライズされているということなのか……」
「何を言ってるんだ!僕が受け側に回ることもできないほど狭量な人間だと思うのかッ!?」
「そうでした。博愛主義のあなたが上下左右などと小さなことを気にするわけがありませんでした。しかしそれなら謎は一層深まるばかり……」
「うーん、ベルクが勇者だからかもね。僕にとって不可侵の聖域にいるんじゃないかな。ベルクだけはその博愛の対象になってない気がするし」
「成程、それは一理あります」
「あとこれ僕の勝手な推測なんだけど、ベルクって元はオリハルコンから生まれてきたのかもって思うときがあってさ。未来で彼が僕に触れても吸収されずに無事だったし、君との会話も意味深だったし、過去に遡ったとき手を貸してくれたのもオリハルコンだったし、なんていうか柔軟に変化するのに本質はそのままっていうところが特にそれっぽいなって。そう考えるとますます不可侵な感じになっちゃうんだよね、僕からすると」
「その推測、私も同意見ですね。オリハルコンだけは精霊言語の系統から外れた言葉なんです。ちなみにその元々の意味は”山の銅”、そしてベルクの名は”山”という意味を持っています。類似性が見え隠れしていますよ」
「へえーそうなんだ。ふふ、でもベルクに言ったら即座に否定されそう」
「おや、どうしてです?」
「だって神具にお祈りするの超苦手だもん。何かの繋がりがあるならもっと上手くいってもいいだろって愚痴が返ってきそうだよ」
「それは想像に難くないですね。……では和んだところで次の方にまいりましょうか」
「次はウェヌス?続編ではあんまり出番回ってこなかったよね。大人の女性になって落ち着いちゃったせいかなあ」
「人妻の魅力も描けないとは嘆かわしい。しかしこれもまた続編のさだめですかね」
「続編のさだめ?」
「テーマが異なればスポットの当たる人物も異なるのが道理でしょう。彼女は前作の終わりに結婚というゴールテープを切り、比較的安定した環境に収まっていますから」
「ああ、変化しない部分は描かれなくてもしょうがないってこと?じゃあその理屈で言うと、逆にスポットが当たりまくっている人物には葛藤や成長が」
「成長とは少し違うかもしれません。成長はどちらかというと前作の主題でしょう。続編は人間関係や内面の掘り下げを重視して書かれているのではないですかね」
「あー、それはあるかも。てことはウェヌスにはあんまり掘り下げる部分がなくて隅っこに追いやら」
「王よ、言葉の選び方がなっていませんよ!逆に考えるんです。前作の終了時点で彼女については書き切っていたと考えるんです」
「そ、そうだね。でないと失礼だもんね。いくらクラウディアやディアマント辺りの兄弟関係を詳しく突っ込んでいけばまた別の一面が垣間見られたんじゃないかなと思っていても、そんな風に言っちゃ駄目だよね!」
「そうです。エーデルとの女の友情が云々などと突っ込んではいけないのです!」
「本当は割と本気でツヴァング君がウェヌスに惚れ込んじゃって、ウェヌスもベルクも鈍いもんだからふたりに意識される前にまるで普通の挨拶のように激情を受け流されて失恋してしまう予定だったとか言えないよね!!」
「まあなんと言うか全部力量不足です!!反省はしているらしいです!!」
「――というわけで次行こうか。次は……ああ、うん」
「成程ここで彼なわけですか。まあそりゃそうですよね」
「ノーティッツは喋ることいっぱいありそうだな〜。続編のヒロイン枠って某閲覧者さんからも言われてたからなあ〜」
「仕方がないです。攫われて捕らえられてというところがピーチ姫やローラ姫を彷彿とさせるのでしょう」
「ローラ姫っていうとドラクエだね。『勇者への道』ってタイトルもそうだけど、僕たち思いっきりドラゴンクエストに影響受けた設定になってるよね」
「ええ、あなたがドラクエ1の勇者、ベルク・ノーティッツ・ウェヌスが2の勇者組、アンザーツ・ゲシュタルト・ムスケル・ヒルンヒルトが3の勇者・僧侶・戦士・賢者のイメージで描かれていますね。もっと言うとディアマントが天界人なのは4の勇者をイメージした名残ですし、イデアールがユーニを大事にしているのはピサロとロザリーをイメージした名残です。クヴァドラートなどもろにピサロナイトですし」
「そもそも書き始めた理由がドラクエっぽい話やりたい!だったもんね。当時は公開予定なんてなかったから、キャラデザも今より更にドラクエに近かったみたい」
「主人公や汎用キャラに明確な個性が与えられていないゲームなので、1.5次妄想が捗るんですよ、ドラゴンクエスト」
「僕のおすすめは2、3、4、5だな。5のフローラが可愛いんだ」
「と、さりげない布教を挟んだところで話は少し変わるのですが」
「うん?」
「私、今日は元々星占いをしてくれないかと呼ばれていたんですよ」
「星占い?……勿論それは一般的な星占いじゃあないよね?」
「ええ、前作で”道”というキーワードがあったよう、続編には”星”というキーワードがありました。私の星占いはその人の背負った宿命を占うものです」
「ということはノーティッツの星は……!?」
「彼の星は”欺瞞”ですね。天性の大嘘つきというか、詐欺師というか、まあろくな人間ではありません。ハルムロースとかいうインテリ悪が前作に登場していましたけど、本気時のペテン度は比較にもならないでしょう。貧民街や権謀術数渦巻く特権階級に生まれついていたら性格がねじ曲がって大変だったかもしれません」
「……ペ、ペテン師……」
「ベルクの幼馴染だったからこそ彼は心強い味方だったわけです。クラウディアはチラチラ本性を覗かせるようになってきましたが、ノーティッツはまだあんまりそういう気配もありませんし」
「ええっ!?クラウディアよりノーティッツのほうがヤバイ感じなの!?」
「薄々気づいていたでしょう。闇堕ち後数百年も同じ目的に執着して生き続けるというのは並の精神ではできないことですよ」
「た、確かに……。あの闇堕ち事件に関しては僕も『ノーティッツって相当ベルクのこと好きなんだなあ』と思わざるを得なかったけど……」
「相当というかもはや友情という名の宗教です。一見しただけなら普通の友人同士のようですし、ベルクのド健全オーラに誤魔化されてわかりづらくなっていますが、ノーティッツは非常に強い依存心を隠し持っていますね。私が全登場キャラの中から危険人物トップ3を選ぶとしたら余裕でランクインしてきます」
「そ、そんなに……!?ちなみに他のふたりは一体……」
「あなたとクラウディアですけど」
「そんな気はしてた!!!してたよ!!!でも僕誰かに固執して病んだことはないからね!!!!!!」
「彼らだってベルクやエーデルというストッパーがいますから暴れはしません」
「あ、暴れられたらひとりで止める自信ないなあ……」
「魔法使いは本来そこそこ優しい気性の者が多いはずなんですけどね。彼らは精霊や気功師の生まれ変わりなので」
「ま、まあふたりとも別に悪さはしてないし……?」
「悪いことをしたら大好きな相手に嫌われるからじゃないですか?それは単に抑止力が働いているだけですよね?」
「う、うん……。というかノーティッツはなんであんなにベルクが好きなんだろう……。いや、気持ちはわかるけどさ……」
「あなたや彼だけではありませんよ。ウェヌスもツヴァング君も元アペティート兵の皆さんもベルクを守るためなら何でもすると思います。人徳がありすぎるんです。たまたま彼は一番長く側にいたので一番影響も強かったのでしょう」
「君もツヴァング君には君付けするんだ……」
「ご存知ですか?植物は光を浴びて成長するものですが、過剰な光は却って毒になるそうですよ。ベルクとあなたが光と光ならベルクと彼は光と闇、そう言っていいのかもしれませんね。そういう薄い本結構好きです」
「最後のひとことがなければ上手くまとまってたのになあー!!!別にいいけどね!?」
「あ、それとノーティッツはフラグの無駄打ち数もなかなかでした。ベルクにブルフ、ハンスにツヴァング君、バイトラークにヴルカンと同性ばかり引き寄せて、希少な女性も母親に死亡少女とパーフェクトです」
「何がパーフェクト!?」
「ここまで外堀が埋まってしまったらもう腐臭が漂ってきてもしょうがない……。王よ、そう思いませんか?」
「わからないでもないし実際腐臭どころか腐乱死体転がしちゃったから言い訳にしかならないけど、一応ノーティッツってストレートの人だからね!?」
「ネルトリヒの新住所をバイトラークの現住所にして『間違いが起こりやすい状況になったなあ』とニヤニヤとんずらしたあなたが言いますか」
「ああッ!最後の悪ふざけがばれてるッ!!」
「お見通しですよ。これでも楽園以降の出来事なら全知の存在ですので」
「そ、それじゃ前作終了時点でノーティッツが『こいつベルク廃人だから将来はベルクの娘と結婚しそうだなあ』と思われていたことも知ってるっていうのか……!」
「当然知っています。彼の徹底した廃人ぶり、そしてそれを覆い隠す分厚い面の皮には感嘆の息さえ漏れます。というか王よ、もしかして本編と番外編を合算したら、あなたの出番彼より少ないんじゃないですか?」※pixivに投稿した腐番外を含みます。
「い、一番言ってはならないことをーー!!!!!もういいよ、次行こう次!!!!!!!!」
「次ですか、次はクライスですね。デザインが終わってから『もっと貧乳にすれば良かった』と宇宙の声が嘆いていました」
「嫌な宇宙の声だなあ……」
「ちょっと巨乳ばかり増やしすぎたと反省したそうです。それに彼女なら転生前が男性という設定もありますし」
「そうそう、彼女シュルトなんだよね。ツエントルムが生きてたら激ギレしてたかもしれないよね」
「彼には割と済まなく思っているらしくて、罪滅ぼしにディアマントとクラウディアとウェヌスに毎年お歳暮送ってくるみたいです」
「そ、そうなんだ……」
「でもこれからは破滅の宿命を逃れ、ありふれた存在として埋没していくのでしょうね」
「あーそっか。てことは破滅の力って最後はどこ行ったことになるの?」
「魔力自体は少量ずつ冥界に吸収されていますよ。地上に力が表出しなくなった分、死後の世界が広がったのだと考えればわかりやすいでしょう」
「成程成程、それじゃそろそろ君の話かな」
「おや、もう私の順が巡ってきましたか。私には裏話なんて何もないのですけれど」
「没設定はあるじゃないか。最初は精霊王の息子の映し身って感じじゃなかったっけ?精霊王と人間の間に子供がいるって設定だったと思う。ディアマントやエーデルたちも精霊として同じ時代に生きててさ、ヒルンヒルトやツエントルムなんかは大精霊って呼ばれるポジションにいて、ノーティッツはオリハルコンの番人で……」
「確かそうですね。楽園の盛衰の歴史を練り切らないで連載を始めてしまったので後から考え直すのが大変だったと宇宙の声が語りかけてきます……」
「その教訓が次に生かされることを切に願うよ」
「未熟な面も多々ありますが、創作は楽しいようです」
「うんうん、楽しいのが一番だ!」
「というわけで精霊たちや楽園についてつっこまれても返答しかねますから、駆け足で次に向かいましょう」
「う、うん。次はヴィーダかな。ヴィーダの裏話かあ」
「デザインを何度やり直してもハウルになると頭を抱えた人がいるのは知っています」
「そんなこと言われたらクライスがソフィにしか見えない」
「ジブリのヒロインは質素系ワンピースが多いので……」
「関係ないけどヴィーダってどれくらい有能だったのかな?」
「外交手腕についてですか?」
「うん、騙し合いに化かし合いも含めて」
「ラーフェは基本的に色仕掛けで籠絡、という体当たり作戦が多かったようですから、彼も無能ではないにせよ超有能とは言い難いのでは……」
「そっかあ。まあクライスが付いてれば多少アレでもきっと大丈夫だよね」
「ドリト島のような小さな国家を平和に運営していく、というのは性に合っていると思いますよ。自分の手に負えないことを抱え込むからよろけてすっ転ぶんです。彼のようなタイプは、自分が幸せなときは周りも幸せにしようと尽力しますので」
「それはわかる気がする。でも、ヴィーダのそういうとこ嫌いじゃないな」
「さて、次はニコラですか。まだまだ言及しなければならない方がたくさんいるのでペースを上げていきましょう」
「はいはい!僕にも宇宙の声聞こえた!」
「どんな声ですか、王よ」
「1話目でもっとノーティッツと仲良くさせるか序章にも出演させて悲劇感を煽ればよかったと……」
「概ね正解です。どうして世の中明るくて素直ないい子から死亡フラグが回収されていくのでしょう」
「明るくて素直ないい子が死んじゃうと無条件に悲しくなるからじゃないかなあ」
「彼女はベルクとウェヌスがイチャイチャベタベタしている間、ノーティッツの話し相手になってあげるということが多かったようですね」
「そもそも仕事とはいえ新婚夫婦のお宅にノーティッツが同居してること自体おかしいんだけどね」
「そこに疑問を持たない夫婦だから彼がこじらせるんですよ。わかりますか」
「鈍いって罪なんだなって、本当に心からそう思う」
「なおニコラは成長すればEカップのはずでした」
「Eか……エーデルと同じだな……」
「真剣な目の使いどころ間違えてると思いますよ」
「大丈夫、心を許した仲間としか猥談なんてしないから。あ、でもツヴァング君にはシモネタなんて振れないけど。真っ赤になって逃げてっちゃうし」
「名前が出たついでに彼の話にシフトしましょうか。ツヴァング君は……当初はあなたを慕う後輩キャラとして考案されたんでしたっけ」
「設定メモの端っこにツヴァアラなんて単語が残されてるけど、本編はそんな片鱗もないよね!」
「完全にベルクの引き立て役になってしまっていたので、格好良く描写するとか急成長させるとかは書いている途中で諦めた、と宇宙の声が」
「未来編のツヴァング君はちゃんとカッコ良かったと思うけどな〜。いなくなったノーティッツをしつこくしつこく探してくれてたんだもん。彼がベルクとノーティッツの縁を途切れさせないでくれたんだよ。そういう薄い本結構好きだな」
「ツヴァング君の矢印をどちらに向けるかで論争になりそうですけどね」
「カップリング戦争ならとっくの昔に経験済みさ。うちの女官たちはマハアラ派とマハヒル派で血で血を洗う抗争を繰り広げてたらしい……」
「勇者の国ちょっとおかしいですよね」
「人外におかしいって言われた国家君主の気持ちわかる?」
「わかりません。部下に自分×部下の薄い本を貸し出して影から様子を窺う悪趣味な君主の気持ちなどわかるはずもありません」
「ああッ!日常の悪ふざけもばれてるッ!!」
「城内の結婚したい男性、出世しそうな男性ベスト10に常時ランクインする有能な人材に一体どういう教育を施してるんですかあなたは」
「う、うう……自分の魔法に怒られる日が来るなんて……。これ以上悲しくなる前に次に行こう……!」
「次ですか?ええと次は……ああ、クラウディアですね。ちなみにその次がディアマントでその次がエーデルです」
「この3人はなんかもうセットで語らないといけない気がしてくるよね」
「未来編のクラウディアとエーデルは結婚したものの子供が生まれず、ディアマントとも踏み込んだ関係には至らなかったという感じでしたが、本編軸ではどうなんでしょう」
「どうなんでしょうって……君は全知なんじゃないの?」
「実を言うと彼らの未来だけは読み切れないんですよ。宇宙の声が決めかねてると言っていますし……」
「仕事しなよ宇宙の声!!決めてあげないとディアマントが可哀想だろ!!」
「本来はクラウディアが前作の最終回で自害し死ぬはずだったんです。なのにうっかり生き延びてしまって」
「そうだったんだ!?じゃあ最初はディアマントとエーデルがくっつく予定だったんだ!?」
「ええ、実は」
「……ディアマントには内緒にしててあげて。なんか事実を知ってもクラウディアが生き残ったほうが良かったから気にしないとか言いそうだけど……」
「彼の星は”忍耐”ですからね。兄の優しさのひと欠片でも弟は煎じて飲めばいいのに……」
「ク、クラウディアにはクラウディアの優しさがあるんじゃないかな?」
「そう言えば彼の出自には未だ不明な点が多いですね。裏話的にはその辺りを明かすべきでしょうか」
「ああ、ヒルンヒルトの娘さんに育てられたんだっけ。女装させられてたのって確かその人になんだよな。……あれ?もしかしてこれ結構ドロドロした話が出てくる?」
「そりゃ出てきますよ。クラウディアの設定話ですよ。逆にドロドロ以外の何があるんですか」
「何って言われても困るんだけど、ちょっと聞くの怖い」
「ヒルンヒルトの娘は彼に愛する母親アルテと似通った格好をさせて育てていたんです。母性への渇望もあったかもしれません。しかしその感情はあまりにも行き過ぎたものでした。ふたりきりの森の隠れ家、何が起きても悲鳴は誰にも届かない……」
「待って待って!!ちょ、重くない!?クラウディアってそんなねっとりした背景を持つキャラだったの!?」
「今勝手に作りました」
「創作か!!!!!!いや、創作なんだけど、そうじゃなくって、ああああ」
「まあ非処女は非処女ですけどね」
「!!??」
「盾の塔からひとりで辺境の国に辿り着くまで、路銀の問題で、適当な金持ちと」
「えっ……!?!?」
「まあ冗談ですけどね」
「ちょっ……!!!ま、まさか自分の魔法にからかわれる日が来るとは……」
「ということにしておこうかなと思います」
「!?!?」
「ディアマントは生涯童貞を貫きそうですし、兄弟でバランスが取れていていいんじゃないですか?」
「また両極端だなあ……!!え?ていうか冗談なんだよね?」
「ともあれクラウディアが荒んだ環境で生きてきたのは間違いありませんし、そんな中初めてできたエーデルという友達は何者にも代えがたい存在だったのでしょう。しかも半分天界人である自分と同じで彼女にも魔物の血が流れている。運命を感じたとしても致し方ないというものです」
「エーデルのほうはどうなんだろうね?表向きにはクラウディア好き好きって感じだけど、ディアマントのことどう思ってるのかなー」
「あの3人はあなたが思うよりずっと均等に愛を分かち合っていますよ。彼女は自覚していないだけで、兄と弟のどちらもとても大切に思っていますから」
「つまり僕にできることは……勇者の国に一妻多夫制を取り入れることか……」
「だから自覚してませんってば」
「ハッ!」
「本編軸ではクラウディアかディアマント、どちらかとの間に娘を設けると、そこまでは決めてあると宇宙の声が」
「どっちなのか気になるから今決めてよ!!!!!」
「ううん……じゃあディアマントと言っています。……抱いたら寿命が来て死ぬけど、年老いた自分が残るより共に生きていける娘を残したほうが彼女のためだと考えそう、だそうです」
「悲しいよ!!!!!!」
「逆にクラウディアとの間に娘ができてしまったら、母娘に遠慮して尚更彼がアプローチしなくなるじゃないですか」
「そ、それは否定できない」
「しかもきっと『お母さんのこと好きなんでしょう!?』とその娘から発破をかけられる事態になるのは必至ですよ」
「あーでもそこで思いを表明すると死んじゃうってなると詰みなんだな……。本当に色々と不憫だ……」
「ディアマントにはカッコイイ童貞の称号を授けておきましょう」
「要らぬわ!!って怒られるだけだと思う……グス」
「王よ、泣かないでください。あなたにそんな悲しみを味わわせるつもりでは……。次の人物に移りましょうか」
「そうだね。明るい話題が欲しい」
「次はマハトなので大丈夫ですよ。薄い本の話もし放題です!」
「誤解のないように言っておくけど、別に僕が腐ってるわけじゃないからね?」
「わかっていますよ。皆が楽しそうだと楽しくなる、自分が話題の中心だと嬉しくなる、その程度のことなのでしょう?」
「その程度って言われると辛いものがあるけど言い返せないのが輪をかけて辛い……ッ」
「薄い本で思い出しましたが、前作でマハトがゲシュタルト側に付く直前、あなたがベルク相手なら何でも話すと嫉妬の念を見せた場面があるじゃないですか」
「うん。結局ムスケルの無念がさせたことだったけど、それが何?」
「あれ初期設定ではマハトではなくノーティッツがあなたとベルクの仲にモヤモヤして鬱憤を溜め込んでいくという流れだったんですよ」
「話題豊富だなあノーティッツ!!!」
「やっぱりこじらせ度合いの強い人は違いますよね」
「そしてそのこじらせをそのまま続編に持ち込んだ結果ああいうことに……。え?今のノーティッツって別に僕に対して負の感情抱いてないよね?あくまで初期設定の話だよね?」
「ええ、あくまで初期設定の話です。大体ベルクに好感を持つ人間すべてにイチイチ粘着していたらキリがないじゃないですか」
「まあそうだけど!というかマハトと言いノーティッツと言い、片腕系キャラは一度敵側に回る法則でもあるのかな?」
「それはどうでしょうか。マハトと彼では意味合いが異なる気がしますね。宇宙の声は『マハトにはアラインを精神的に叩き潰すべく離脱してもらったけど、ノーティッツの離脱は敵側に戦力を分けてあげないと話がまったく盛り上がらない程度にはノーティッツが頭脳チートすぎた』と言っていますが」
「戦力差の問題だったんだそこ!?……ということは僕が早々に破滅の魔法ごと一時退散したのも」
「あなたが戦闘に加わったらその時点で向かうところ敵なしですからね。続編はどうやってあなたとノーティッツを退場させるかという問題が割合早くから対策されていたんですよ……」
「知らなかった……。けどそんな話を聞くと、マハトって魔法使いでも参謀タイプでもないのに頑張って僕に付いてきてくれてたんだなあって思うよ」
「まあそうですね。この世界、魔力が強くてなんぼなところがありますし。アペティートがいくら科学大国を謳ったところで魔法には敵わないのが……あ、この流れでアペティートサイドに話をやってしまいますか?」
「ええ!?マハトの話ノーティッツに食われてほとんどしてなくない!?」
「問題ありません。どうせヒルンヒルトの話題になれば彼の名前は出てきます」
「納得しちゃいけないんだろうけど凄く納得したからマハトごめん」
「では心置きなくアペティート皇帝ヴィルヘルムとその腹心ブルフについて語りましょう」
「うーん、ヴィルヘルムは影も幸も薄かったなあって」
「ラスボスにするつもりのなかった配置だけラスボスキャラでしたからね。というか、続編のラスボスは破滅の魔法という人格もへったくれもない相手でしたし……」
「重い過去とかない分だけ何も考えずに倒せたわけだけど、そうすると続編って中ボス的なキャラが多かったのかなあ」
「立場を変えて味方になる中ボス、思い込みで暴走する中ボス、ひたすら下衆の道を走る中ボスですか」
「そうそう、ヴィーダとクライスとブルフね。レギも中ボスは中ボスだけど、アンザーツが付いた時点でこっち側だなって感じだったし」
「ブルフやリッペ君のような我が身可愛い虎視眈々キャラは書いていて非常に楽しいそうです」
「ま、また宇宙の声?」
「まあブルフに関しては、おちょくられて怒るベルクを書くのが更に楽しかったのでどっちがどっちと言いにくいみたいですが」
「そう言えばブルフの見た目ってちょっとベルクとかぶってるよね。服の色とか短髪黒髪三白眼とか」
「ああ、わざとですよ。そういった錯覚作用があれば薬物で意識の混濁したノーティッツが惑わされやすいかなという」
「えー!?そこもなの!?というか今日ノーティッツの話しかしてなくない!?」
「登場率から考えれば何も不自然なことではありません。というか、いい加減察してください。物語を動かしているのはこじらせたチート、こじらせたインテリ、こじらせたヤンデレ、そんな生き物ばかりでしょう」
「あっもしかしてノーティッツって三冠……」
「本人はどこがだよと反論してきそうな辺りが救えませんね」
「ノーティッツ……」
「ちなみにこのまま行くと第二のこじらせ賢者ヒルンヒルトの順番なわけですが」
「――ん?呼んだか?」
「う、うわあ!ヒルンヒルト!?」
「さっきから楽しげな会話が聞こえてくるのでフラフラ引き寄せられてきたぞ」
「おやおや、この空間の狭間にやって来れるとは、流石破滅の魔法を宿しているだけありますね」
「あ、本当だ。右手に白い五芒星が」
「さながら人外の集いですか。良ければ少しお邪魔していきませんか?ふたりで続編のあれこれについて雑談中なんです」
「うむ、暇で暇で仕方がないので寄らせてもらおう」
「ヒルンヒルトってあの後マハトの生まれ変わりと会うまでどうしてたの?」
「諸国漫遊だ」
「まぁ妥当な過ごし方ですね」
「そうだろうとは思ってたけど外さないなあ」
「何百年と彷徨ったから飲食していない名産品はほぼないぞ。ホイの奥地の山村まで行ったからな」
「う、うわあ……。悪霊グルメツアー……」
「ただ、暇に飽かして少々、……その、各地に伝説を残し過ぎた気がしなくもない」
「ああ、本編軸の未来ではヒルンヒルトというと世界で最も有名な精霊ですしね。奇跡の代名詞にもなっているはずです」
「そ、そうなんだ!じゃあマハトの生まれ変わり的にはスーパーチートスポンサーを手に入れて人生成功したも同然だったんじゃない?」
「いや、それが最初はなかなか相手にしてくれなくてな。都ちゃんねるに『部屋に悪霊が居座ってるんだがどうしたらいい?』というスレまで立てられて本当に傷ついたよ……」
「そのスレ楽しそうだから後でチェックしとこう」
「本編軸の未来でも人口増大とともに魔法使いの数は減ってきているんですよね。三日月大陸とヒーナにしかそういった特殊能力者が生まれてこないので、研究機関もとても少ないとか。にもかかわらず魔法使いの認知度が高いのは、ひとえにヒルンヒルトの無駄な活躍のおかげと言えるでしょう」
「何を言う!人生に無駄なものなど何もない!」
「『死んだと思ってからが本当の始まり』という台詞などは格言として世界中の人々に知られています」
「うん、なんか、ヒルンヒルトって色々と自由でいいよね。マハトは大変だと思うけど」
「彼は”巻き込まれ災難”の星の持ち主ですから仕方ありません」
「巻き込まれとは何だ!マハトはいつも最終的に私を理解して味方になってくれるぞ?」
「それはあなたの顔が好きだからです」
「……!?どういうことだ……?」
「ムスケルの時代から、彼は『ああこいつ滅茶苦茶だけど顔だけはとびきり美人なんだよなあ』とあなたの愚行を許そう許そうと努力していたんですよ?」
「か、顔に免じて……?でも確かにマハトって意外と面食いだからな……」
「普段はとても付いて行けない破天荒な考えにも、好みの顔ににっこり微笑まれたらホイホイ付いて行ってしまう哀れな男心ですよ。顔が好きだから話も聞いてみる、顔が好きだからこのくらいまぁいいかと思える、顔が好きだから性別という境界線も次第にどうでも良くなっ」
「ストップストップ!!ストーップ!!!!」
「なんですか必死に、王ともあろう方が」
「確定的な話は一応避けてもらえるかな?宇宙の声がマハヒルを推していることは僕にもわかるけど!!」
「なんだ私の性別が問題なのか?それなら平気だ、老若男女いずれに化けるのも可能だからな」
「尚更問題が悪化した気がする!!!!っていうかヒルンヒルトみたいに色白で腰の細いミステリアス美脚美女に迫られたらマハトには本気で抵抗の余地が」
「ああうん、彼の生まれ変わりもそんなことをぼやいていたな。要するに見かけがクリーンヒット過ぎて中身が多少お粗末でも気にならんということか」
「そうそう、そうです」
「はっはっは、見目良く産んでくれた親には感謝しなければいけないらしい。親の顔も知らんが」
「中身がお粗末っていう自覚はあるんだ……」
「だって君の先祖だぞ?アライン」
「僕はヒルンヒルトよりましだって自負してるよ!!」
「果たしてそうでしょうか?ネルトリヒとバイトラークの新居にそっと薄い本を積み重ねてニヤニヤとんずらしたあなたがヒルンヒルトよりましな部類に本当に入れるのでしょうか?」
「そんなことをしていたのか君……」
「わー!!ごめんなさい僕が悪かったです!!!もう、次、次行こう!!!」
「そうですね。ではありがとうございました、ヒルンヒルト」
「なんだもう帰らないといけないのか?」
「2対1だと僕の分が悪すぎるんだ、ごめん……!!」
「!!アライン、塩はよせ!!清め塩はよすんだ!!!か、身体が……!!!!」
「……。スーッと消えて行きましたね」
「やっぱり悪霊は悪霊のままなんだなあ」
「さて気を取り直して、続いてはアンザーツについてです」
「アンザーツかあ。続編では完全に勇者辞めちゃってたよねーあの人」
「ブラック企業から解放されたかのごとく二度と勇者なんかしない宣言してましたね」
「それでもどっか勇者らしいのがアンザーツのアンザーツたる所以かなって気もするけど」
「優しい人なんですよ。でも彼も結局は我を通すタイプですよね。周囲の人間を従わせる力を持っていると言うか」
「ああ、ヒルンヒルトもゲシュタルトもアンザーツがこうするって決めたことには逆らわないイメージあるなあ」
「ベルクにしてもあなたにしてもそういう面がありますから、勇者というのは似通った生き物なのかもしれません」
「ええー?そうかなあ?」
「そうですよ」
「でも僕には闇堕ちしたり大賢者の試練を受けたりしてまで尽くしてくれる片腕キャラっていないんだけど……」
「……」
「……何か言ってよ……」
「……まあ、その、あなたの人望がどうと言うより、マハトが真っ当な価値観の持ち主なんじゃないですかね」
「慰めになってるのかなってないのかわかんない!」
「というかあなたには私がいるじゃないですか。幾千年の時を越えてあなたの命令に従い続けてるんですよ?」
「ハッ!」
「そんな私の存在を忘れるなんて逆に酷くありませんか?」
「ご、ごめん。けど君って僕の魔法なんだから従わないほうがおかしいんじゃ……?」
「……。まあ細かいことは置いておきましょう!所詮人生最初から最後までひとりきりです!」
「わ、わああー!!!”孤独”って僕だけじゃないかー!!!!」
「大丈夫ですよ、たとえあなただけ同窓会の案内が送られてこなかったり、日程が合わず家族旅行に連れて行ってもらえなかったとしても、私はあなたを永遠に見守り続けています……!」
「やめて!!やめて!!」
「というわけで次はゲシュタルトの話ですね。アンザーツにはレギという友達ができ、彼女にはイヴォンヌという友達ができ、なかなか幸せに過ごしているようです。特にゲシュタルトは初めての女友達ということで、アンザーツが『ひょっとしてゲシュタルトはぼくよりイヴォンヌが好きなんじゃ……?』と疑うレベルで親しくしているとか」
「ああ、本編軸のアラインも同じことで悩んでたみたいだよ。『イヴォンヌが僕よりゲシュタルトと喋りたがる……』って」
「どっちが攻めなんでしょうね?」
「ちょいちょい下世話なこと言うのやめない!?百合も許容範囲内なの!?」
「私が下世話なのは大元のあなたが」
「わー!!!!聞こえない聞こえない!!!!!」
「冗談はさておき、もしアンザーツが彼の勇者時代にきちんとゲシュタルトたちと話し合って和解していた場合どうなっていたと思いますか?」
「え?アンザーツの勇者時代にって……ファルシュを倒したぞって凱旋帰国する前?」
「そうです。自身に起きている異変や魔王と結んだ事実について、彼とヒルンヒルトがきっちりゲシュタルトとムスケルに明かしていたら――です」
「それは……なんというか難しいな……。アンザーツは封印されなきゃいけなかったろうし、あの人が失踪って形を取らなきゃ少なくともゲシュタルトとムスケルは別行動取らなかったろうし、そうするとアルテは生まれてなくて勇者の家系は……」
「ヒルンヒルトは意地でもこの世に残っていたでしょうけどね。ムスケルとゲシュタルトは案外円満な夫婦になっていたかもしれません。あ、あとハルムロースとあなたも生まれていませんね」
「何か随分ひっそりした『勇者への道』になりそうだなあ」
「大きな禍根が結果としてより良いものを残すきっかけに成り得るということです。そういう話好きだなあ、と宇宙の声が」
「また宇宙の声か!!上げて落として最後の最後に上げるのが好きな宇宙の声か!!」
「『勇者への道』は割合平和だったので次こそは救いようのないどうしようもない話が書きたいとかなんとか」
「うわー恐ろしい予言だ……」
「ところでゲシュタルトの次がイヴォンヌ(♂)なんですが、どうしましょう?」
「イヴォンヌ(♂)かあ、ショートカットも似合ってて可愛かったなー。また会いたかったなー」
「彼とだったらあなたにも固定カップリングができるんじゃないですか?良かったですね」
「はっ……!本当だ。でも割とすぐ女の子に戻っちゃってるし、僕も大して絡めなかったし、腐臭纏わせるのは難しくない……?」
「真剣な目の使いどころ間違ってますよ」
「乗せておいてその言い草!!!」
「じゃあここはさらっと流して、次はレギに行きましょうか」
「レギかー。一方的に見てる側だったけど、彼って僕と似てるところがあって憎めないんだよねえ」
「確かに同系統の君主ですよね。有能すぎてひとりで決めちゃう癖のあるところとか」
「うっ……そうなんだ。独裁体制目指してるわけじゃないのに何故かそうなっちゃうんだ……」
「オイシイところをひとりで全部持って行っていたらいずれそうなりますよ。レギは孤立してやむなくでしたけど、あなたのは単に格好つけでしょう」
「うう!で、でも勇者の国で勇者がいい格好しなかったら立ち行かないって言うか……!!」
「そんなんだからあなたがいないだけで一国総避難なんて羽目になるんですよ?未来編でも脱勇者を掲げるどころか依存させまくり信奉させまくりで」
「ううううううう」
「あなたが数百年孤独に生き残る設定が降りてきた時点で、宇宙の声は『あ、これ、続編のラスボスはアラインかもしれない……』と戦慄したらしいです。実際はそうならなかったので良かったですけど」
「ううううああああああ」
「関係ないですけどレギの15歳っていう年齢いいですよね」
「突然なに!?また宇宙の声!?」
「15歳って良くありませんか?大人たちと対等に渡り合えるギリギリ下限の年齢かなと思うんですが」
「まあ、なんとなく言いたいことはわかるよ。まだ幼さの残る青少年が己の才覚ひとつで頑張る姿って応援したくなるもんね。ツヴァング君とか」
「ああ、ふたりを会わせたらいい友人になるかもしれませんねえ。真面目同士ですし」
「ツヴァング君って僕みたいな上司好きだからレギとも相性いいんじゃない?レギってあれだろ、あんな初々しい顔して呼吸するように夜伽命じるタイプだろ?」
「わかります。吹っ切れてからはそうなりそうです。しかも至極冷静に、妃に相応しい品格と教養を備えた女性かどうか見極めているというか」
「君主としての割り切り度合いは僕よりずっと高そうだよね」
「或いは知性の高さがそうさせているのかもしれません。暴走していなければ彼もインテリ属性持ちですし」
「えっと……遠回しに僕の頭がよろしくないと言われたような……」
「いえ、あなたも頭の回る方だと思いますよ。ただなんというか、そう、……惜しいっていう感じです」
「惜しいってどこが!!!!!」
「”孤独”を卒業する日が来たら、”惜しい”の星をお持ちして伺いますね」
「嫌だよ!!!!!」
「さて、残り人数も少なくなってきました。そろそろビブリオテークに話題を変えましょう」
「次は首領のアヒムと腹心のインゴ?……言っちゃなんだけど印象薄いよねこのふたり」
「すべて力量不足のためです。反省はしていると言っています」
「う、うん……。あ、アヒムはクライスとヴィーダに子供が生まれた途端、孫の元へ通い詰める無表情デレおじいちゃんになってそうかな」
「ヴィルヘルムよりは余程人間できてますからね、ちゃんと和解してヴィーダと釣りに出掛けるくらいの間柄にはなるんじゃないでしょうか」
「あー、そういう平和なエピソード聞くと安心するよ。アヒムって戦争で奥さん亡くしたんでしょ?恨みつらみが残っててもおかしくないのに……」
「取り決めを破らなければ仁義を貫く国のボスですし、本当は彼も平和に生きていたいんでしょう。ビブリオテーク内には新生アペティートを叩き潰そうという過激派もいましたけど、それよりは自国の発展をと説き伏せたのが彼とインゴです。ヴィルヘルムが死んだとき、彼の復讐も終わったんだと思います」
「インゴと言えば、彼はブルフと因縁があったんだよね?お互いの顔の傷は切りつけ合ってできたものだって聞いたけど」
「ええ、先の戦争で直接対決をしているみたいです。インゴもアペティートに多くを奪われてきた男ですが、彼はそれでも無用の殺戮を嫌っていましたね。ちなみにインゴもベルクを気に入って、戦後ビブリオテークの職人を何人か兵士の都に送っています」
「凄いなベルク!!!!人脈広がりすぎだよ……。また僕が差をつけられてく……」
「兵士の国って実は三国で一番住み心地良さそうですよね」
「わ、わあー!!!」
「では続いてユーニとトカゲの話でも。残りはシュルトとラーフェ、バイトラークとネルトリヒなので省略させてもらいましょうか」
「じゃあ代わりにバールとラウダ、トローン陛下とウングリュク陛下、ノーティッツのお母さんの話でもする?」
「ああいいですね。そこそこ出番がある割に人物紹介から省かれてしまっていますしね」
「ユーニとトカゲは親子関係がなくなったからお好きにイチャイチャしててくれって感じだよね。トカゲ、短い時間だけど鏡に映したものに化けれるって特殊能力持ちみたい。預かってる間大変だったってトローン陛下が愚痴ってた」
「ユーニは少し髪が伸びて成長を窺わせますよね。あのリボン、エーデルがあげたものだそうです」
「またGカップに戻れるといいなあ」
「……気になっていたんですが、王よ、貧乳には関心が向かないのですか?」
「えっ?い、いや、そんなこともないけど、胸と夢は大きければ大きいほどいいんじゃないかなって……」
「シュトラーセは……B〜Cくらいでしたよね」
「……そ、そうだね。それがどうかした?」
「まさか彼女に揺らがなかった本当の理由は」
「ち、違うよ!!!誤解だよ!!!!」
「……」
「なんで黙るの!?」
「まあいいです。サクサク行きましょう。これ以上完結を遅らせるわけにいきません」
「いや、良くないよ!?誤解解けてないままだよ!?」
「とある経緯で発覚するのですが、バールは実はホイという島国の出身だったんです」
「ああ、うん、とある経緯ね……。本編軸のノーティッツが、破滅の魔法について調査する旅から一時帰国したときに、ホイの精霊言語学者を連れて来たんだよね……」
「そうです。それがバールと同じ訛りで話す青年ヴルカンだったわけです」
「ヴルカンがノーティッツと仲良くて、旅に付いて行ってなかったベルクがモヤモヤすることになって、なんだかしみじみベルクにも独占欲があるんだなあと感じたと……本編軸の僕が思っていたよ」
「暗黒面のなさそうなキャラに暗黒面が見え隠れし出すと興奮するって宇宙の声は言ってました」
「でもそんな遠い国の神鳥……じゃなくて人間だったのは意外だな。ラウダも三日月大陸の人じゃないんだよね?」
「ラウダはビブリオテーク生まれですね。褐色肌のナイスガイです。ふたりとも学者として三日月大陸を目指していて、同乗した船で意気投合して、そのまま祝福の都までやってきたという感じです。バールと違ってラウダはルーツを辿るヒントが一切残されていないので少々不憫ですね」
「うーん、でも、バールがいつかホイに戻って自分のこともラウダのことも思い出せたら、ふたりが揃って元に戻れる可能性あるんじゃない?神鳥の姿になってるのってツエントルムの呪いのせいだろ?記憶が戻れば呪いもきっと解けるから……」
「そうですね。本編軸のあなたが死去したその後は、バールもそういう道を選ぶかもしれません。まあ元の姿に戻ったところで、チビで不細工な容貌にショックを受けていそうですけど」
「あっ、やっぱりバールはイケメンではないんだ。精神面ではかなりのイケメンだと思うんだけどなあ〜」
「精神的イケメンというと、私はトローン陛下に一票入れておきたいですね。完璧ではないけれど大らかで締めるところは締める、なかなかいない人材ですよ」
「あー、それはわかる!ベルクのお父さんって感じだよね」
「そうそう、トローン4世はイヴォンヌに懸想して振られた過去があるとかないとか」
「え!?あ、イヴォンヌってノーティッツのお母さんの方の……ええええ!!?」
「大人の世界は色々複雑ですよね」
「よ、予想外のボールだったよ今のは……でも妙に納得してる自分がいる。そっかあ、王族の恋愛って予想がつくようでつかないから……。ウングリュク陛下とノルムさんが結婚したときもビックリしたもんなあ」
「彼女は割と陛下好き好きオーラを醸し出してたと思いますけどね。辺境は世襲制ではないので身分がどうとかあまり言われないんでしょう。その代わり宮廷魔導師クラスだと魔法の使えない配偶者と一緒になるのはあれこれ貶されそうですけど」
「歳の差婚って軽く衝撃走るよね……。ノルムさん、うちの兵士たちに人気あったから『髭か!髭が良かったのか!』『ジジコンだったのかよ!道理で相手にされないと!』って嘆くアラサーが続出してた……」
「そういえばイヴォンヌは勇者の国にも滞在していたことがあるんですよ」
「ノーティッツのお母さんアクティブだな!!!」
「彼女、癒えない放浪癖があるんです。自由でないと生きている気がしないそうで」
「う、うん。そういう感じの人だよね……」
「シャインバール23世が離婚の危機にあったとき、王妃との仲を取りなしてあげたのが彼女だったんです。それで感謝した王妃が生まれてきた娘にイヴォンヌの名を」
「えええー!!?そうなんだ!!?」
「宮廷の陰にイヴォンヌありと、王族の間ではそう囁かれているようですね」
「てことはベルクがノーティッツの家に入り浸れたのって……」
「母は偉大ですよ。大いなるこじらせのきっかけになっちゃってますけど。――さ、もう語ることは語り尽くしたかと思いますので幕を引きましょうか」
「ああッ!?最後もノーティッツの話で終わっちゃった!?」
「それもまた運命の流れです。では皆さん、ごきげんよう。またどこかでお会いしましょう」
「な、長のご愛読ありがとうございましたー!!」



おしまい。









「勇者への道」シリーズはこれにて完結です。ありがとうございました。
(20130831)