――その姫は、人を信じることのできない呪いにかかっておりました。
――その騎士は、名誉ある騎士になれない呪いを受けておりました。
これはとある海の国の王女と騎士の物語。
愛によっては結ばれず、生涯わかり合うこともない。けれどもずっと続いていく。
――その姫は、千年を生きる蟲でした。
――その騎士は、百年で死ぬ人間でした。
騎士は暗い獄の中。光も差さぬ獄の中。
短い命の灯火さえ砕けた白銀に飲まれかけている。
――その姫は、己の呪いが解けぬものだと知っていました。
――その騎士は、己に成せる唯一のことを知っていました。
燃え落ちた夢のひとひらが輝く結晶に変わるとき、永遠になるものがある。
人は生きる。生きていく意味を求めながら。
人は死ぬ。死して世に何を遺すか悩みながら。
鐘を撞け!
天まで響くほど高く!
時の巡り、戦いの始まり、祝福されし夫婦の門出も罪人の死も鐘はすべてを我らに告げる。
その音とともに最後の幕を始めよう。
長い、長い、騎士物語の始まりと終わりの幕を。
(20191129)