ブログに載せていた王様たちのお話。








 運動着をこよなく愛するトローン四世の若い頃、勇者の国で三国会議が開かれた。
 その頃かの国はまだ厭味チョビ髭のシャインバール二十二世が治めており、トローンとウングリュクは王位についたばかりだった。
 中身のない――というかシャインバールのアンザーツ自慢で数時間が経過するというまったく腹立たしい会議が終わった後、トローンは己の苛立ちを発散するため部屋に篭ってヒンズースクワットを五十セット行った。しかしそれでも怒りが冷めず、シャドーボクシングに打ち込んだ。だがそれでも血圧が一向に下がらないため散歩に行こうと従者を連れて部屋を出た。そうしたら廊下でばったりウングリュクに出くわしたのだ。彼はこれから街へ視察に赴くそうだった。
「おお、それなら是非同行させてくれないか? 慣れない城は息が詰まって仕方ない」
 半分本当で半分嘘だった。シャインバールと同じ空気を吸っているのが嫌なだけだった。
 ウングリュクは突然の申し出にも快く頷いてくれた。人の良さそうな男だった。
 実際彼の人となりは素晴らしかった。異国の都で多くを学ぼうと実に様々なものに目を向けていた。教育施設に商業施設、建築様式から馬車の車輪に至るまで。農作物に関しては特に熱心で、どんな農具を使っているかも店の主人に尋ねていた。この勤勉な青年がトローンはすぐ気に入った。そして一気に打ち解けた。
「勇者の国は作物が豊かで病もないから、民は皆暢気だな。勇者の祭りだけやっていれば安泰なんだろう。まったく、うちの山岳地方の大雪が全部こっちに降ればいいのに」
「はは、まあそうカッカしなくても。住む場所が違えば抱える問題もまた違うさ。私は私の国を良くするためどうすればいいか考えるよ。必ずしもこの国と同じ豊かさを目指す必要はない」
「ウンちゃんは大人だなー。けどその考え方、嫌いじゃないぞ。うちの国にはうちの国の良さがある! 俺は兵士の国をもっと強くするんだ」
「ああ、だったらうちはもっと魔法技術を磨かなくてはいけないな」
 ウングリュクは前の国王の遠縁に当たるらしい。王様を目指そうと決めたのは十五のときだそうだ。辺境の国は変わった国で、次の王様を決めるのに血筋を見るのでも選挙をするのでもなく勝ち抜きトーナメントを実施するのだという。魔界からやってくる魔物たちを退けるのに、より強く賢い王が必要なのだ。
 玉座にふんぞり返ったシャインバール二十二世より、日々自己研鑚に努めるウングリュクをトローンは尊敬した。ウンちゃんトロちゃんと親しく呼び合い、何かというと鏡通信で連絡し合った。辺境の国がイデアールの軍勢に襲われたときは我が事のように心配した。何かできることはないかと尋ねたら、一刻も早く勇者に来てほしいと言われた。
 勇者の国に頼るのは凄まじく癪だったが、チョビ髭からはとっくに代替わりしていたので、気弱なシャインバール二十三世をせっついて早く勇者を旅立たせろと毎日三回使者を遣った。それでもあの国はもったいぶって一年もこちらを待たせたのだ。
 もう我慢の限界だ。国際問題になろうと知ったことかと兵士の国で勝手に勇者を募集してどんどん辺境へ旅立たせた。その中には息子もいた。息子は諸悪の根源を倒し、勇者として凱旋してきた。ざまあみろだった。

「……で、それがカーチャンとの馴れ初めとどう関係あんの?」

 ベルクが問うと、トローン四世は「おお、いつの間にか話が逸れとったな」と詫びてくる。このところ脳筋親父はますますおつむが足りていないような気がする。年齢の話をすると拗ねるので言わないが。
「いや、母さんとの出会いは衝撃的だったぞ。ウンちゃんのところの勝ち抜きトーナメントを見習って、ワシもやったんだよ。優勝者が妃になれる身分不問の勝ち抜き戦」
「……は?」
「決勝戦は血みどろの戦いでな〜。ハルプシュランゲによく似た母さんと、殺人カマキリによく似た女性が一騎打ちして、今でも宮廷では語り草よ……」
 お前は母さんの遺伝子を百倍くらい濃くして受け継いだんだろうなあ、とトローン四世は大きな声で笑った。
 ベルクは頭痛がした。
 聞くんじゃなかったと思った。





ウングリュクとトローンは仲良しだよ、という話。