第七話 残り十二人






 石の塔から連れ戻されたのは薄暗いホールだった。
 顔を上げられなくて、でも誰が勝ったか確かめないわけにもいかなくて、なけなしの気力を振り絞る。
 ツレットのすぐ側にバイトラートがいた。バイトラートの隣でネルケがへたり込んでいた。「ヴォルケンは?」と彼女が零した問いかけに行商人の死を悟る。
 ペルレは十日前より焦燥した様子で泣いていて、それをシェルツが慰めていた。ルーイッヒは真っ青になり壁に寄りかかっている。アルタールも同じくだ。ウーゾは広間に視線を巡らせていて、ドルヒは立ち尽くしているように見えた。平然としていたのはラツィオナールとレーレくらいだ。返り血で全身を染めたクノスペも、相変わらずの鉄面皮だった。
 何度数えても十二人しかいない。もう、たったこれだけしか。

「第三試合突破おめでとう」

 壇上で響いた声に視線をやると、満足げに賢者が口角を上げていた。白い指先には何やら大きな羊皮紙が浮いている。嫌な予感がしてツレットは双眸を窄めた。
「誰が誰と戦ったか一目瞭然にした方が、君たちもやる気になるかと思ってね」
 ヒルンゲシュピンストは羊皮紙を広間の真ん中に移動させた。最初にそれに近づいたレーレが「まあ!」と息を吐く。
「アルタールさん、あなたあの曲芸師とおやりになったの? さぞかし力をおつけになったんでしょうねえ」
「……」
 古い英雄と同じ名を持つ少年剣士は怯えた素振りで魔女から顔を背けた。人殺しの事実を確認され、アルタールはふるふる唇を震わせる。意外だった。いかにも意志薄弱そうな彼が、熟練の武芸者に打ち勝ったというのは。
「ふうむ。このトーナメント表によれば、私は次に君とやり合うらしいよ、ウーゾ君」
 ラツィオナールが聖山の修行者ににやりと笑いかける。その笑みを撥ねつけてウーゾは目尻を吊り上げた。
 第四試合の告知までされているとあっては無視できるはずもない。候補者たちがぞろぞろ群がり始めるとツレットも輪に加わった。
 宙に浮かんだ対戦表には二十五人の名前が並んでいた。第一試合や第二試合の記載はない。賢者曰く「最初の方は組み合わせを覚えていない」とのことだった。躍起になって探すつもりもなかったが、ティーフェを殺したのが何者だったかはここでもわからずじまいだった。
「……」
 隅から隅まで目を通してくらりとする。第三試合での組み合わせも気になったが、関心は寧ろ未来へと向いた。またやって来るかもしれない惨劇に。
「やだ……っ」
 後ずさりしたペルレの背中がツレットにぶつかる。倒れないように支えてやるが震えは止まりそうにない。彼女の次の対戦者はネルケだった。
「……これはまた……」
 シェルツも言葉を失っている。ルーイッヒと目を合わせた彼は「現実にならないことを祈ります」と苦笑いを浮かべた。
 シェルツとルーイッヒ、ペルレとネルケ、ウーゾとラツィオナールの他には、レーレとアルタール、バイトラートとドルヒ、ツレットとクノスペが賢者の示した組み合わせだった。
「仲間割れでも狙ってんのか?」
 竜殺しがヒルンゲシュピンストを睨みつける。確かにこんな告知をされては一致団結が難しくなる。特に誰が誰を殺したかは、全員顔見知りになっただけに飲み込みきれないものがあった。
「そんなつもりはないさ。私は別に君たちが束になってかかってきても困りはしないしね」
 動機づけ以上の意味はないと賢者は首を振る。だがその否定にもバイトラートは食ってかかった。
「動機づけ? こじらせるのが目的なら話は同じだろ?」
「何も憎み合えとまでは言っていないよ。私は勇者となる人間に断固たる決意を持ってほしいだけだもの。材料が必要なら差し出すべきかと考えたまでだ」
 では、と去りかけたヒルンゲシュピンストを「お待ちください!」とレーレが引き留める。外道の魔女は喜々として主人に尋ねた。
「私、手心は加えませんが、よろしいんですの?」
「ああ勿論。君は君のために全力で戦うがいい。そろそろアルタールにも本気になってもらいたいしね。大きな壁となり立ちはだかっておくれ」
「……壁が彼を押し潰す結果になっても?」
「そのときはそのときだ。あまりに勇者に相応しくないとなれば、私も諦めざるを得ないよ」
 不可解な会話に眉をしかめる。引っ掛かりを覚えたのはツレットだけではなかったようで、賢者が消えると皆の注目は一斉にアルタールに向けられた。
「レーレ君、今のはどういう意味だね? 私にも教えてもらえないかな?」
 臆しもせずにラツィオナールが問いかける。
「構いませんわよ」
 魔女は長い髪を払い、妖しげに微笑んだ。瞬間、広間から逃げ出そうとしたアルタールをバイトラートが引っ掴む。何か後ろめたい事情がありそうだった。

「あの方はアルタールさんのために試験を開催したんですわ。アルタールさんは、異世界から来られた最有力候補者ですの」

 意味不明な爆弾発言に場がどよめく。
 誰が誰のためにだって? それに異世界とは何の話だ?
「アルタールさんさえ始末できれば私の生存は確定的、しかも決勝戦で当たるより今の方が分もありますわ。ああ、なんて恵まれているんでしょう! やはりあの方は私のことも考えてくださっておりますのね!」
 今にも踊り出しそうな魔女を横目にツレットはアルタールを盗み見る。彼からは特に否定も説明もなかった。
「い、異世界って? ヒルンゲシュピンストが生み出す異空間とはまた別なのか?」
 気を奮ってレーレに問う。聞かなければという義務感がツレットを追い立てていた。ファッハマンの代行者として聞かなければと。
「ええ。私たちの住む世界とは僅かに交わるだけの、遠い遠いところです。あちらの澱みが魔王としてこちらの世界に生起するので、澱みを処理してもらうのに勇者を召喚させるのが王国の慣わしなのですわ。そうですわよね、ルーイッヒ殿下?」
「……まさか既に召喚を行っていたのか? しかも以前と同じ勇者を?」
 えっとツレットは目を瞠った。アルタールという名前自体はさして珍しくない。偉人の名を拝借したがる親はいつの時代も多いものだ。だがルーイッヒの台詞には、明らかにそれとは違うニュアンスが含まれていた。
「そうなのです。でも困ったことに、アルタールさんはご自身の力も記憶もすっかり失くしておいでだったんですの。こんな貧弱なままでは魔王討伐に送り出すなど絶対に無理。そこでヒルンゲシュピンスト様は、手っ取り早く勇者に捧ぐ犠牲者を募ったんですわ」
 アルタールは青ざめてじっと俯いている。彼がかつて世界を救った勇者だなんて信じられなかった。三百五十年も過去の人物には見えないし、勇者と呼ぶには纏う空気があまりにも――。
「腑に落ちねえな。なんだってそんな大昔の人間がこの時代に混じれるんだ?」
「突っかかりますわねえ、バイトラートさん。私たちの世界とは時の流れすら異なる世界があるんですのよ。ヒルンゲシュピンスト様はこの世で唯一『あちら』に干渉する能力を持った方なのです。あの方はずっと勇者の再来を待ち続けていらっしゃった。もう一度、必ず会おうと約束なさったから」
 レーレは嘲りの色濃い眼差しで候補者たちを一瞥した。「まだ肝心なことがおわかりでないようね」と盛大に侮蔑の嘆息を吐き出して。
「魔王を滅ぼすとか王国を守るとか、あの方にはどうだっていいんですのよ? この試験はあの方がアルタールさんに――大切なご友人に、勇者の人格と思い出を取り戻させるためにやっているんですもの。私たち皆、彼のために集められた駒なんですわ」
「はあぁ!?」
 理解不能すぎて声が裏返る。どうでもいいとはどういうことだ。魔王を呪い殺すのが賢者と王の第一目的ではなかったのか。
「大義のために騙されたのだと思い込んでいた方が幸せでしたかしら? お許しあそばせ。それでも勇者が魔王を倒すことに変わりありませんから」
「勇者選定に乗り気だったのは自分の目論見と合致していたからか? 友人一人取り返すためだけにこんな惨たらしい試験の実行を? 馬鹿げている。あの化け物……!!」
 憤りも露わにルーイッヒは拳を震わせる。愕然としているのは彼やツレットだけではなかった。ラツィオナールでさえヒルンゲシュピンストに個人的な思惑があるとは考えていなかったようだ。
「つまり賢者はアルタール君を勝ち残らせて、自分好みの勇者に仕立てあげたいわけか。 だがレーレ君、どうして君は今そんな暴露を? そもそも君はヒルンゲシュピンストの望みを知っていたのに何故契約書にサインしたのだね?」
 二つの問いにレーレはさらりと答えてみせる。
「この話を聞けば皆さんアルタールさんに剣技や魔法の稽古をつけようとは思わなくなるでしょう? 私、ベストを尽くしたいんですの。アルタールさんはただでさえヒルンゲシュピンスト様に贔屓されておりますから、鍛えさせたくないのですわ」
「成程。では契約書にサインした理由は?」
「私にも欲しいものがあります。命を懸けても手に入れたいと願うものが。この試験をクリアすることが絶対条件なのですわ。怖気づいてチャンスを逃すくらいなら、燃え尽きて死んだ方がずっとまし。なら飛び込むしかないでしょう?」
 好戦的な笑みを浮かべ、魔女はくるりと踵を返した。歩を進め、アルタールの眼前で立ち止まる。
「どうぞ意気地なしのままでいてくださいまし」
 馬鹿にした声で囁くとレーレはそのままホールを後にした。
 一つ嵐が立ち去ると二つ目、三つ目の嵐も引き揚げを開始する。ぽたぽた血を滴らせながらクノスペが出て行き、次いで思案顔のラツィオナールも退出した。

「――……」

 残された面々の顔を無言で確かめる。バイトラートは掴みっ放しのアルタールを解放したものかどうか悩んでいた。ネルケは俯きヴォルケンの眼鏡を握り締めている。ペルレも沈黙、ルーイッヒも二の句を紡いでくれない。シェルツは困ったようにこちらを見つめ返すだけで、ウーゾとドルヒに至っては目も合わせてくれなかった。
「まだ……、頭、働かないよな……」
 ツレットの呟きに反応はない。震える喉に喝を入れ、なんとか声を絞り出した。
 誰かを待つのではなくて、自分がやらねばならなかった。今までファッハマンがしてくれていたこと。
「色々、考える前に、さ……。皆のお墓、作ってあげないか……?」
 たった一つ提案するだけでこれほど勇気を必要とするなんて。
 全員ツレットが誰と戦ったか承知のはずだが糾弾の声は上がらなかった。ヴォルケンのように、きっぱり賢者が悪いと言い切ってくれる者もなかったが。






 弔いの十字架はそれぞれ自分が倒した対戦者のものを立ててやっていた。口を開く余力もなく、ツレットは単調に土を盛り続ける。
 ふと見れば皆に混ざってウーゾの姿があった。妙な感じだ。まさかこの男までツレットの言に追従してくれるとは。
(……こいつがフォラオスを殺したんだよな……)
 片膝をついて手を合わせるウーゾを横目に麻痺したがっている頭を働かせる。
 妙と言えばそちらも妙な話だった。少し前まで確実にフォラオスは自分より強かったのに。
(なんか信じられないな。もうあいつの無神経な言動に腹立つこともないだなんて)
 墓場に泣き声は響いていない。鼻を啜る者すらいなかった。皆ただ呆然としている。新しく区切られた生と死の境界線を目の当たりにして。
「……なあ、フォラオスの奴、何か言ってなかったか? 村のこととか、領主様のこととか」
 静かな横顔に尋ねるとウーゾは無表情のまま振り返った。答えてくれるかどうかわからないが、このタイミングを逃せばきっと聞けもしなくなる。
 しばらく黙して返事を待った。やはり答えてくれないかと諦めかけたとき、やっとウーゾの唇が動いた。
「いいや、なんにも。最後の最後まで嫌な奴だったよ」
 なんだそれはと思わず口に出しかけた。嫌な奴なら弔いなんてしなけりゃいいのに。
 言葉は声になる寸前で飲み込んだ。――違う。相手がどんな人間だったかなんて関係ないのだ。死んだ方がいい奴だとか、殺されても仕方のない奴だとか、もしかしたら百人の中に何人かいたかもしれないけれど、人を殺す資格のある者なんて一人もいなかったはずだから。
「…………」
 十字架に立てかけられたフォラオスのレイピアを前に跪いた。頭を垂れたツレットにウーゾが問いかけてくる。「祈ってやるのか?」と。自分だってそうしたくせに、心底不思議そうに。
「嫌な奴だったし、好きじゃなかったけど……死んだ後までこだわることじゃないだろう」
 正直に告げた言葉にウーゾが何を思ったかは知らない。十三の墓標が並び終わるとすぐ彼は屋敷に引き返した。遠ざかる背中に呼びかけたのはバイトラートだ。
「おい、これからどうするか話し合わねえのか?」
「言ったはずだ。仲間の仇と一緒にやってくつもりはない」
 冷たい返答は十日前と変わらなかった。
 やはり駄目か。彼にはツレットがどうしても許せないらしい。
「難儀な奴だな」
 嘆息した竜殺しの目は墓地に残った人間に向けられた。ヴォルケンの墓から離れないネルケと項垂れたままのルーイッヒは落ち着くまで少し時間がかかりそうだ。ペルレはシェルツに支えられ、なんとか立ち上がっていた。アルタールは片隅で兎のように小さくなっている。
「あんたも協力する気なしか?」
 残る一人、ドルヒにバイトラートが問う。草原の遊牧民は従順な弟を喪いひとりきりになっていた。彼もウーゾに続いて館へ戻りかけたところだった。
「どうせまた次の試合が行われるに決まってる。無駄な力は使いたくない」
 熱のない黒い目は即座に逸らされた。「なんだよその態度?」と珍しくバイトラートが怒声を浴びせる。竜殺しは勢い任せにドルヒの肩に掴みかかった。
「お前のさっきの対戦相手、お前の弟だったよな?」
「そうだ。それがどうかしたか?」
「わかんねえかよ!? 弟殺して生き残ったなら、投げやりなこと言ってんじゃねえ!!」
 止めた方がいいのか迷う間にドルヒがバイトラートの腕を振り払う。殴り合いになるかと思ったが、意外に二人とも冷静だった。バイトラートは一度怒鳴ったきり手を引っ込め、ドルヒは反論も反撃もせず服装を正すに留める。
「気に入らないなら試合で剣に訴えればいいだろう? 次に殺し合うのはどうせ俺たちだ」
 挑発的な物言いに「あ?」と竜殺しが青筋を浮かべた。それを無視してドルヒは立ち去ろうとする。
 今度こそ乱闘になりそうだったが、ネルケが後ろからバイトラートを羽交い絞めにして窘めた。
「もうよしてよ!! そんなことよりこれからどうするか考えなきゃでしょ!?」
 ちらとこちらに目をやったドルヒを、竜殺しはそれ以上追わなかった。遊牧民が殺したのが実の弟なら、バイトラートが殺したのはクノスペの兄だ。そばかすの槍使いが最後に何を託したか、想像に難くない。兄弟でありながら弟を守らなかった兄にバイトラートは怒りを覚えたのだ。その気持ちはツレットにもよくよく汲み取れた。
 だが今はネルケの言う通り、今後の方針を定めねばならぬときだ。話し合いに応じさせるべき人間の第一もドルヒではない。
「……本当に違う世界から呼ばれてきた勇者なのか?」
 ツレットはアルタールに向き直り、率直に尋ねた。異世界なんて自分の頭では想像もつかないし、黒髪黒目の若者はどこにでもいそうな特徴のない容姿をしている。しいて変わった点を挙げるなら、軍服仕立ての服装が見かけない生地でできているくらいだった。
「僕の住んでたところは……電気が通ってて、車が走ってて、高いビルもたくさん……こことは全然違ってた」
 逃げられないと悟ったのだろう。陰気な勇者はぽつりぽつりと身の上を語り始めた。
「でも別世界から来たってことはわかっても、個人的な記憶は一切残ってないんだ。ヒルンゲシュピンストに僕が勇者だった頃の話も教えてもらったけど、本当に何も思い出せなくて……。魔王討伐なんて自信ないって言ったら、あいつが勝手にこんな試験……!!」
 信じてくれ、とアルタールは悲痛に顔面を歪める。自分は賢者の企みに荷担していない、何も知らなかったのだと。
 謝罪はなかった。頭を下げるなんて選択は目の前の少年にはなさそうだった。アルタールにしてみれば、彼が最たる被害者なのかもしれないけれど。
「なんで最初に打ち明けてくれなかったんだ?」
 悲憤を堪えて一つだけ問う。
 アルタールは俯くだけで何も返してくれなかった。それで止められなくなった。
「あんたが話してくれてれば、ファッハマンたちともっと有効な策を考え出せたかもしれないのに。みすみす皆を死なせる結果にはならなかったかもしれないのに!」
「…………」
 待って、待って、どれくらい過ぎただろう。出てきた答えは「怖かった」の一言だった。ヒルンゲシュピンストのことも、ツレットたちのことも、怖くてならなかったのだと。
 アルタールはツレットの抱く英雄像からかけ離れていた。強くもないし、優しくもないし、頼りになんてなりそうもない。おまけに自分の都合しか頭にないようだ。仮にも勇者に一番近い人間であるくせに。
 ファッハマンの爪の垢を煎じて飲ませてやりたかった。あの少年がどんな思いで散って行ったかわからせてやりたかった。どんなに尊い存在がこの世から欠けてしまったのか。
「あいつは、ファッハマンは、俺とペルレで館の探索を続けろって……! 俺が残った方が皆のためだからって、自分から犠牲になってくれたんだぞ? それなのにあんたは、怖かったってなんだよ? レーレがばらさなきゃまだ黙ってるつもりだったのか!?」
 言いがかりだ。半分は。誰にだって我が身を守る権利がある。ファッハマンと同じ献身を求めるのは間違っている。
 だが言わずにはいられなかった。アルタールがこの試験を良く思っていないなら尚更、その場凌ぎのだんまりよりもっと前向きな努力をしていてほしかった。
「俺は核探しを続ける。ファッハマンの遺言だし、呪いに捕まった皆を助けたいから。もう誰も殺したくないから。あんたはどうする? 手伝ってくれるのか?」
「……」
 迫るツレットにアルタールは身を竦ませる。後ずさりした彼の背中に庭の果樹がぶつかった。
「……。……っ僕は、魔王、倒さないと……自分の世界に帰れないから……」
 胸を占めた感情は失望だった。けれどもう彼一人を責めるまいと口を噤む。怒りが憎しみに変わったら、ファッハマンの遺志を尊重できなくなる気がした。皆で力を合わせてこの逆境を乗り切ること。それが自分の殺した少年の望みだと忘れたくない。
「ごめん。本当にごめん」
 やっと聞けた言葉は耳を擦り抜けていく。墓場から逃げ出したアルタールを誰も追わなかった。
 彼が生還できる可能性は、多分候補者の中の誰よりも高いのだ。帰りたいと願う場所にも館を出ただけでは帰れないなら、たとえ敵対したくないと思っていても味方になってはくれないだろう。
 アルタールの去った後、夕闇に染められた庭には重い沈黙が立ち込めた。
 これからどうしていくべきか。核を探すという指針はあれど、自信は露ほども湧いてこない。
 賢者の館は候補者たちの呪壺であると同時に、アルタールを閉じ込めておくための牢獄だったのだ。ヒルンゲシュピンストが既に優勝者を定めているとすれば、果たしてツレットたちに抵抗の余地など残されているのだろうか?
「お前とペルレの魔力が戻ったら、すぐ探索を始めよう。俺もオリハルコン以外の武器を探しとく」
 肩を叩かれ振り向くと唇を引き結んだバイトラートがいた。逞しい腕がまだやれるさと言外に伝えてくる。
 小さな勇気を与えられ、ツレットはほっと息を吐き出した。泣きたい気分で礼を言う。
「ありがとう、バイトラート」
 誰かが寄り添ってくれている。その間はツレットも堪えて立っていられそうだった。






 ******






 寝台にうつ伏せると眠りは即やって来た。自分で思うより疲労困憊していたらしい。
 どうせなら夢も見ないほど深く眠りたかったのに、瞼の裏には次々と悲しい情景が映し出された。
『ツレット君が皆のところへ戻るべきだという僕の主張はわかってくれるよね?』
 ファッハマンが手を振って消える。
『君も手伝ってくれ! もう時間がない!!』
 ブラオンは転がり落ちるように視界から外れた。
『お兄ちゃん』
 明るい顔でティーフェが振り返る。こちらに駆け寄ろうとした妹は追ってきた闇に飲まれた。
 その暗がりの奥に死体が一つ横たわっている。魔獣の幻を纏わされていた最初の対戦者が。
(……まともに攻撃してきたのは、一撃目だけだったよな)
 魔法に敏い者ならば、そこで気づいたのかもしれない。こちらが人間だということに。
 実際ファッハマンは第一試合の時点で幻術を見抜いていたと言っていた。だったら自分は無抵抗の、正気に戻れと呼びかけてくれていた魔導師を殺してしまったのだろうか。もう考えても詮無いことだが。
(早く呪いを破りたい……)
 息苦しさにツレットはもがく。これだけ罪を重ねてしまったら、どう贖えばいいか見当もつかない。
 罪悪感で頭がおかしくなる前に決着をつけてしまいたかった。怒りや悲しみや無気力が支配者になる前に。






 翌朝、いつもファッハマンがそうしてくれていたようにペルレは広間で待ってくれていた。ツレットが調子を問うと、少し元気なさそうに「普通かな」と答える。目の下には濃い隈ができていた。
「さっきバイトラートさんが来てね。今日は皆、どんな能力が身についたのか各自訓練して確かめるように言っておくって」
「そっか……俺たちの魔力も増えてるはずなんだよな」
「うん。私、十分弱くらいは時間停止できるようになってると思う。ツレット君は……きっともっとだよね」
 言われてツレットは右手を開いた。魔力の総量はわからないが、魔法のイメージは前より鮮明になっている。
「ファッハマンとはどうやって核探ししてたんだ?」
「ファッハマン君は、屋敷のなるべく広範囲に腐食魔法を浸透させて、復元魔法の効果が高いところを絞ってたの。怪しいポイントが見つかれば、私が時間を止めてる間にもっとじっくり調べてたわ」
「わかった。同じようにやってみるよ」
 最後にファッハマンが教えてくれた腐食魔法のこつを頭の中で繰り返す。小さな粒がうようよ増えていく様を想像しろと魔導師は言っていた。雨降りの後、森の溜め池で水が緑に濁るのと似ているだろうか。
 黒々とした魔力をホールに行き渡らせるとペルレは「すごいね」と呟いた。
「百年修業したって私、ツレット君に追いつけないよ。私にもそんな伸びしろがあれば良かったのになあ。本当、何のための時間属性なんだろう……」
 魔女の声音には少なからぬ悔恨が滲んでいた。自分の力がもっと強ければ核を破壊することも可能だったかもしれないのにと、自責の念に駆られていた。
「それで昨日泣いてたのか? 戦いが終わった後……」
「え?」
 ペルレはきょとんと赤い瞳を丸くした。意外な反応にツレットの方が面食らう。少女は苦笑いで首を振ると「違うわ」と否定した。
「私の相手、クヴァルムさんだったでしょう?」
「ああ。もしかして危なかったのか? 怖い目に遭わされたとか?」
「ううん。そうじゃないの。あの人、二試合目で私の友達と戦ってたってわかったの」
「!」
「そのことを私に嬉しそうに言ってきて……、許せなかった。気がついたらあの人を塔から突き落としてた」
 世間話の延長のようにペルレは語るが、華奢な肩は小刻みに震えていた。カチカチと音を鳴らす歯の根が平常心の欠乏を示している。
「昨日一睡もできなかった。私、すごく怖いことしたんだわ。ここへ来る前の自分に戻りたいって思っても、もう欠片もそうなれると思えないの。私は衝動で人を殺せる人間だったんだって、悲しくて悲しくて堪らないのに、戻れる気が全然しないの」
 いつものおどおどした彼女より、話しぶりは流暢なくらいだった。混乱に上擦った声を抑え、ぐっと歯を食いしばり、ペルレは目尻の涙を拭う。
「……大丈夫。ちゃんと自分の役目は果たすから。私もツレット君みたいに頑張りたいの。せめてちょっとでも皆のために。そうでなきゃ私、本当に……」
 唇を噛んだまま俯くペルレにかけてやる慰めなど思いつかなかった。優しい言葉を選んでも逆効果かもしれないとか、黙って聞いていてやる方が親切かもしれないとか、余計なことを考えてしまって。
「ネルケさんと戦いになったら、私きっと生き残りたいって思えないわ。ネルケさん魔法の扱いも上手いし、とても優しい人だもの。自分の力、全部譲ってしまうと思う。だから私、今の間にできることしておきたい。このままじゃヒェミーにもゲラーデにも合わせる顔ないから」
 死を仄めかす発言につい「やめろよ」と語気を荒げる。魔法使いの遺言を聞くのはもうたくさんだ。
「そんな風に言うな。ペルレは酷い奴なんかじゃない。俺の方がよっぽど……!!」
 紡ぎかけた言葉は喉に詰まった。あのときファッハマンを殺した自分は何者だったのだろう。ファッハマンと一緒に死んでしまったのはどんな自分だったのだろう。よぎった疑問に呼吸まで止められる。
「ツレット君はいい人だよ……」
 そうしたらペルレが首を振ってくれた。彼女だって傷ついた心を持て余していたのに。
「頑張ろうって言ってくれる人がいなきゃ、励ましてくれる人がいなきゃ、こんなところで誰も前を向けないでしょう? ファッハマン君、絶対後悔してないよ。魔導師は皆、決断するときは強い意志を持ってするんだから」
 逆に慰められてしまって目の奥が熱くなる。
 しばらく探索活動も放置して二人で手を握り合った。
 誰かの存在を肌に感じていたかった。生きている誰かの心と体温を。






 ******






 おやおやとラツィオナールは目を丸くした。まさか盗みの現場を目撃するとは思いも寄らなかった。それも犯人はあの竜殺しバイトラートである。
 祈りも捧げず墓場で何をしているのかと思ったら、彼は重量級のランスとこれまた重量級の大剣を拝借してさっさと別館に行ってしまった。オリハルコンの宝剣などという素晴らしい武器を所持しているくせに、あんなもの何に使うつもりだろうか。
(ふむ。尾行してみるか)
 興味を引かれれば即行動だ。自分も別館に向かうべくラツィオナールは玄関の柱の陰から踏み出した。が、その直後、本来の観察対象である人物が姿を現す。裏口側から庭を横切って歩いてきたのはオレンジ色の道着に身を包んだウーゾだった。
(おっと。バイトラートは後回しだな)
 再び物陰に身を隠す。ウーゾはラツィオナールに気づいた様子もなく真新しい墓標の前に跪いた。
 死者には敬意を払うよう師父に教育されてきたのだろう。聖山の修行者たちは高潔と正義を求められる。と言っても復讐が正当化されてしまう程度には狭い範囲の正義に過ぎないが。
 ウーゾはミルトとフォラオスの墓に一礼すると、懐からダガーを取り出ししばらくの間黙祷していた。
 やりやすそうな相手で良かったとほくそ笑む。身体能力を高めるとかいう聖山式の気功術は厄介だろうが、扱う人間が未成熟なら怖くはない。

「何の用だ?」

 鋭く低い声に問われ、ラツィオナールは「おや」と腕組みを解いた。気づかれてしまっては仕方がない。大人しく我が身を陽光の元に晒すことにする。
「こそこそ鬱陶しいんだよ。何を嗅ぎ回ってやがる」
「敵情視察と言ってほしいな。戦う前に相手をよく知っておくのは兵法の基本だろう?」
「そう簡単に技を見せるわけないだろうが。待ち伏せするだけ無駄だ」
「別に私は君の身体能力だけを測っているのではないのだよ。寧ろ知りたいのは精神面の変調かな? 例えば第三試合を経て、心の傷がまた深くなったのではないかとかね」
 あからさまな警戒の色がウーゾの双眸に滲んだ。ふっと笑ってラツィオナールは歩を進める。剥き出しの心に仮面をつける術も持たないのか。純真で結構なことだ。
「私には理解できないよ。わざわざこんな墓を作ったり、毎日足繁く手を合わせに通ったり」
「お貴族様に祈りの習慣がないだけじゃねえのか?」
「こんな境遇では誰を殺したところで胸を痛める必要などないと言っているのさ。逆に足元をすくわれるだけと思うがねえ」
 ラツィオナールの言葉に青年は更に眼差しを鋭くする。これだけ安い挑発に乗ってくれるのだから、山暮らしの世間知らず様々だ。
「感謝するぜ。あんたみたいな下衆が相手だと俺もやりやすい」
「ははは、勇ましいな。私はミルト君の仇だし、きっと殺しやすいだろう? 君も彼とだけは懇意にしていたようだし」
 にやりと口角を上げウーゾを焚きつけた。予想通りの反応が示されると愉快で堪らなくなってくる。
「……何が言いたい?」
 理性の糸はあと一本と言うところか。今にも噛みついてきそうなウーゾに「おお怖い」と肩を竦めてみせる。本気で怒らせてみるのもいい手かもしれないが、今日のところはこのくらいにしておこう。
「消えろ」
「言われるまでもなく退散するとも。君の力が私のものになる日を心待ちにしているよ」
 最後に煽っておくのも忘れずラツィオナールは館に引っ込んだ。
 もっと燃え上がらせればいい。憎しみの炎を、もっともっと。その火勢が強ければ強いほど、風向きが変わったときには苦しめられることになるのだから。












「バ、バイトラート? どうしたんだそのでかい剣とランス? 剣はともかく、そのランスって確かジャスピスさんのじゃ……」
 問いながらツレットは思わず訓練場を見回した。午後の別館にルーイッヒの姿はない。ひとまずほっと安堵したものの、問題は依然未解決だ。いかに温厚な前王子と言えど、大切にしていた従者の遺品が墓前から持ち去られたとあっては怒り心頭だろう。
「許可貰って借りてきたんだよ。館の核をぶっ壊すんだ。これくらいの武器は必要だろ」
「あ、ああ。なら良かった」
 びっくりした。あまりひやひやさせないでほしい。今度こそ胸を撫で下ろし、ツレットはペルレを振り返る。彼女も驚かされたらしく、丸い瞳が大きく見開かれていた。
「俺はしばらくこいつらぶん回してるけど、ツレット、お前どうする?」
「まだ魔力に余裕あるから、もう少し核を探すよ。終わったら戻って来るからまた稽古つけてもらえるか?」
「わかった。そっちは任せたぞ」
 バイトラートは真剣な面持ちで階上へ向かう。屋上には灌木から大樹まで植わっているし、岩もごろごろしているから的にするには都合いいのだろう。
「あ、待ってください!」
 闘志漲る竜殺しを引き留めたのはペルレだった。小柄な魔女は恐る恐ると言った口調で剣士に尋ねる。
「あの、ネルケさんを見かけてませんか? シェルツさんとルーイッヒ殿下は魔法の発動練習をしてるところに出くわしたんですけど、今日まだネルケさんとは会ってなくて……」
 女戦士を案じるペルレにバイトラートは「心配すんなよ」と笑い返す。気持ちの整理をつけるのに少し時間が必要なだけで、出るべきときはちゃんと出てくると。
「眠れなかったんだろ。寝てるだけだと思うけど、まあ後で様子見に行ってみるわ」
「お、お願いします」
 ペルレがぺこりと頭を下げるとバイトラートは手を振り階段に消えて行った。
「……幼馴染だったんだよな? ネルケさんとヴォルケン」
「うん。すごく仲良かったんだと思う。……私が時間が巻き戻せたらいいのにね。この館に来る前まで」
 苦しげな呟きが訓練場の石床に吸い込まれる。ペルレを苛む無力感はツレットにもわかる気がした。核を見つけ出して破壊できても、戻ってこないものの方が多すぎるのだ。本心が望む結末は永遠に得られないから。
「時間を巻き戻すのって本当に無理なのかな。魔法って魔力がイメージに追いついてれば実現可能なんだろう? 試してみないか?」
「え……っ」
 戸惑うペルレの両手を掴んで「やってみようぜ」と鼓舞する。幸い今日はまだ彼女の時魔法の世話にはなっていない。魔力の全てを時間逆行に回せるはずだった。
「……無理だと思う。そもそもこの館が通常の時の流れから切り離されているんだもの。仮に戻せたとしても、私たちが館に囚われている以上、第一試合の開始までしか遡れないと思うわ」
「そうなのか……。いや、でもやってみなけりゃわかんねえじゃん? もし二日前に戻れたら、オリハルコンで核に攻撃しても無意味だってファッハマンに伝えられるし、アルタールの話だって」
「そ、そうだよね。やってみる価値はあるよね。……うん!」
 ペルレはぶんぶんかぶりを振って杖を構えた。胸の前に掲げられた樫の枝に魔女の力が集中し始める。
 一歩退き見守るに徹していたツレットだが、魔法は一向に発動の兆しを見せなかった。第三者には成否がわかりにくい属性なので黙って待つしかないのが辛い。十分もするとペルレは汗だくになって首を振った。
「駄目、やっぱり難しいみたい。一、二秒は戻せてるのかもしれないけど、二日前なんてとても無理だわ」
 ごめんねと詫びる魔女にツレットも気にするなとしか言えなかった。変な期待をかけて、ペルレを傷つけてしまったかもしれない。安易に縋ってしまうのも、もうやめなければ。






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 あの女にいつもの元気がないことくらい承知している。賞金稼ぎ仲間の誰が消えてもしょっぴかれても飄々としていたくせに、今朝はどれだけ個室のドアを叩いても返事さえ寄越さなかった。
 胸に渦巻く感情が怒りなのか労わりなのか、それとももっと別の何かなのか、わからなくて苛々する。
 不快を飲み込むべく薄い葡萄酒を一気に煽り、バイトラートは厨房の椅子にどかりと腰かけた。酔えるほど飲めれば少しは冷静になれるだろうか。いつ試合が始まるかわからない状況で、そんな愚行には走れそうもないけれど。

「身体に悪いわよ、そんな飲み方」

 耳慣れた声にふと顔を上げれば出入り口にネルケが立っていた。結局深夜になってのご登場か。今の今までめそめそ泣いていたらしく、瞼が少し腫れている。誰かに執着するような女ではないと思っていたのに。
「ほとんど水だ。どうってこたねえ」
 大丈夫かとか、ペルレが気にしてたぞとか、優しい言葉を選びたかったが口を出たものはなかった。ポットに湯を沸かし始めたネルケの背中を盗み見て目を伏せる。
 聞けるはずない。聞いていい資格もない。あいつのこと好きだったのか、なんて。
「……あんたとの腐れ縁もここでお終いかもね」
「まだ終わってないだろ。昨日はどうするべきか考えなきゃって言ってたくせに諦めるのか?」
「そうじゃないけど、あたし……」
 台詞の続きは語られなかった。出会ったときから隠し事の多い女だったなと思い返す。最初はもっと陰気で、爛々と光る目で獲物を探していた。バイトラート自身そんな視線を浴びて過ごしたのだ。意味もわからないままに。
「絶対に生きて帰るぞ。俺はヒルンゲシュピンストのために死んでやる気はねえし、お前を死なせる気もねえ」
 振り返らない後ろ姿にそれでも誓う。知らない間に壊してしまった幸せも、死んでしまったヴォルケンも、もう取り返してやれないけれど。生きてさえいれば希望は繋げられるから。
「元気出してくれ、ネルケ。お前がそんなだとこっちも張り合いがねえよ」
 早めに休めよと言い残し、バイトラートは厨房を後にした。自分の側では気を荒立てるだけだろう。慰めたいが慰められない。
 扉を閉めたとき「おやすみ」と声がした。彼女の元に戻ろうかどうしようか迷ってしばし立ち尽くす。だがもう一度扉を開くことはできなかった。代わりに古い記憶の扉に手をかける。
 変な女だった。
 グリフォン討伐の現場にいきなり押しかけてきて、戦況を混乱させてくれた挙句、バイトラートが「危ねえ!!」と庇ってやったらオリハルコンを奪って逃走したのだ。
 神剣を呼び戻すと「ごめん。動転しちゃってた」と素直に謝った。だがそんな言い訳を信用できるはずもない。許したと言うよりは、盗癖持ちの賞金稼ぎなど珍しくなかったから流しただけだ。
 変な女だった。依頼先に赴けば大抵ネルケも同じ仕事を引き受けていた。顔馴染になるのに半年はかからなかったはずだ。
 大きな地図を見つけると、ネルケはいつもじっと睨みつけていた。彼女が捨てた故郷の村を。
 ゴーレム殺しのネルケ。人伝に女戦士の武勇伝を聞いたとき、やっと何もかも理解した。恨まれているかもしれないこと。
 それからはバイトラートの方が彼女から目を離せなくなった。時と共に憎しみのやり場を失っていく彼女から。
(ネルケとどういう関係やねん、か)
 ヴォルケンの問いがよぎって嘆息が漏れる。
 ただの賞金稼ぎ仲間と割り切ることも、一生かけてと踏み切ることもできないのに、どんな関係になれると言うのだ。
 できれば自分があの女の幼馴染でありたかった。そうしたらきっと、ゴーレムからも守ってやったのに。







(20140603)